南蔵院 林住職のいい話 「違反切符」

孫

ある大分に住む老夫婦が、東京に住む娘夫婦に子供が出来たということで、娘婿さんから招待されたときのことです。

孫の顔を見たついでに東京見物でもしようということになり、最初は靖国神社にお参りをしました。

都庁

次に東京都庁へ行き高いところから、お茶でも飲もうと言うことになり向かっていましたが、お祖父ちゃんが疲れが出て、明日にしようということになりました。

帰途についている途中、お祖母ちゃんの気が変わって「やっぱり行きたい!」と言い出しました。

永田町

それでは行こう!ということになって、お婿さんが車をUターンさせた場所が、永田町の交差点でした。

永田町の交差点と言えば日本で一番警察官の多い場所です。
そして、そこはUターン禁止の場所。

白バイ

そこでUターンをしたものだから、1町も行かないうちに白バイが追いかけてきて捕まってしまいました。

白バイの隊員さんが

「Uターン禁止なのを知りませんでしたか?」

と聞くので娘婿が免許証を出しながら、

「迂闊でした」

などと答えています。

そして違反切符を書いている最中に、後ろの座席を見て

「ご両親ですか?」

と白バイの隊員さんが聞くので、

「いえ、大分から孫の顔を見に来た女房の両親で、今日は東京見物中でした」

と答えました。

「あ~~、良いことをしている最中に捕まってしまったんですね!」

と隊員さんも笑っています。

お祖父ちゃんやお祖母ちゃんが、後ろの座席からしきりに

「この娘婿は優しい男でしてね・・・」

と娘婿をほめます。

「私も年老いた両親が田舎に居るんだけどなかなか親孝行が出来ません!

でも私、親孝行をされている素敵な姿を見せてもらいました。」

と言いながらも

「あなたの罰金は8千です」

と、娘婿に渡そうとした瞬間、この白バイの隊員さんは反則切符を破り捨てます。

「私はあなたの親孝行の気持ちに免じて、今日は切符を切ることはしません。

その代わり、今日の反則金の8千円にいくらかでも足して東京の美味しいものを、

このお父さんとお母さんにご馳走してあげて下さい。

そして安全運転で東京見物を終えたなら、お父さんとお母さんを、
ご無事に大分に送り帰してあげてください。

お父さん、お母さんどうぞお元気にお過ごし下さい。

いい息子さんをお持ちになられましたね!」

と言って去っていきました。

お祖父ちゃんとおばあちゃんは、

こんな東京という大都会のど真ん中で、
こんな出会いを持ったことをとても素晴らしいと思う

と、とても感激しました。

そして大分に帰ってから、お祖父ちゃんは地元の交通安全週間の時に、

「今から何年運転を続けるか分からないが、この白バイの隊員さんへの感謝の気持ちとして、一生安全運転を続ける。

『それは人が見ていようがいまいが、私は一切違反はしない。』ということをここで誓う」

と大分の新聞に書かれています。

この白バイの隊員さんがしたことが、良いことか悪いことか・・・
厳密に言えば規律違反かも知れません。

道交法違反の現行犯を捕まえながら逃がしたのですから・・

でも、この時規律通り切符を切っていたら、お祖母ちゃんは

「私が気が変わって変なことを言い出したから」

と負い目を感じるでしょし、せっかくの東京見物が後味の悪いものになったでしょう。

お祖父ちゃんにしても警察に対して、良い印象は持たないでしょう。

しかし、この白バイの隊員さんの行為は、お祖父ちゃんが一生安全運転をして違反はしない、と決心させています。
違反切符が交通違反抑止のためなら、それ以上の結果ですね!

どんな場所に行くよりも、素敵な東京の思い出が出来ましたね。


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